見せかけの幸せ

幸せは芸術の敵だという いい作品を残した人に 幸せだった人はいない 幸せのなにがそんなに素晴らしいのか なんの芸術も生み出さないというのに そんなことを言う人がいる まわりを見れば 幸せは至る所に広がっている 明るい面だけを見れば幸せになれる 未来を信じれば幸せになれる ブータンの人たちは幸せだ いや UAEの人たちのほうが幸せだ 感謝すれば幸せ お金があれば幸せ 健康なら幸せ 愛があれば幸せ そんなプロパガンダが街に溢れている 不幸せの悲惨さは言い尽くせないが まあ それはそれとして プロパガンダの幸せの悲惨さは 見かけだけの幸せの悲惨さだから 深いところにじわじわと 情け容赦なく効いてくる そう 容赦ない幸せの悲惨さは 人を 人でないなにかにしてしまう いいところに住んで いいくるまに乗って 健康な生活をして 困ったことがなく どんな病気も治ってしまうという悲惨さは 想像するに余りある 見かけだけの幸せを追えば 幸せからどんどん遠くなる 大都会では 汚い水と汚い空気と汚い言葉のせいで 芸術は汚くなり そして 人間への無関心から 芸術は人工的になる コンピュータグラフィックスとかいって 合理性と機能性を追求しているうちに 自然を忘れ 感性を忘れ 芸術は芸術でなくなる 芸術の敵は幸せではなく 見せかけの幸せが芸術の敵なのだ 悲しみを知らない芸術はない でも 悲しみのなかでの芸術より 悲しみから立ち直ったあとの芸術のほうがいい 立ち直る そして 取り戻す 暮しの中に自然を取り戻し 感性を取り戻せば 幸せと共に 芸術が戻ってくる ひかりを描く絵も 愛を刻んだ彫刻も きっと戻ってくる 芸術の敵は幸せではなく 歪んでしまった社会 そして汚れた心 違うか? でもそうはいっても 僕は 芸術よりも君がいい 君のほうがずっといい